自分で名刺をデザインして印刷に出そうとしたとき、最初につまずきがちなのが「塗り足し(裁ち落とし)」という言葉です。
「そのまま入稿してはダメなの?」
「どうして余分なスペースが必要なの?」
と疑問に思う方も多いかもしれません。
しかし、この「塗り足し」は、印刷物をきれいに仕上げるために欠かせない大切な基本ステップです。
今回は、名刺の塗り足しの仕組みから、トラブルを防ぐための正しいサイズ「セーフティーゾーン」の考え方、そしてIllustratorやCanvaでの具体的なやり方・設定方法まで、分かりやすく丁寧に解説します。
名刺の塗り足しとは?
印刷データを作るときは、まず以下の「3つのサイズ」の役割を整理することから始めましょう。
- 仕上がりサイズ:完成した名刺の実際のサイズです(一般的な名刺は 91mm × 55mm)。
- 塗り足し(裁ち落とし):仕上がりサイズの外側にある、最終的に切り落とされる「余分な領域」のことです。
- 原稿サイズ(入稿サイズ):仕上がりサイズに塗り足しを加えた、データ全体の大きさです。
なぜ「余分な部分」が必要なのか?
印刷会社では、名刺サイズの紙に1枚ずつ印刷しているわけではありません。
大きな紙に何十枚分ものデータを並べて(面付け)印刷し、それを機械で重ねて一気に裁断(カット)します。
このカットする工程で、どうしても刃の重みや紙の伸縮による「1〜2mm程度のわずかなズレ」が生じることがあります。
もし「仕上がりサイズ」ぴったりにしか色を塗っていないと、カットが少し外側にズレたときに、印刷されていない紙の地の色(白枠)が端に出てしまうのです。
あらかじめ外側に3mmほど余分に色を伸ばしておく(=塗り足しを作っておく)ことで、多少のズレが起きても、端まで綺麗に色が乗った美しい名刺に仕上がります。
名刺の塗り足しサイズは?
では、実際にデータを作成するときは、何ミリに設定すればよいのでしょうか。
具体的な計算方法と、もうひとつ大切な「セーフティーゾーン」についてお伝えします。
基本塗り足しサイズは「上下左右にプラス3mm」
一般的に、多くの印刷会社では「上下左右にそれぞれ3mmずつ」の塗り足しを設けるのが標準的なルールとなっています(縦・横それぞれにプラス6mmします)。
- 名刺の場合:
仕上がり 91×55mm + 塗り足し(上下左右3mm) = 原稿サイズ 97×61mm - A4チラシの場合:
仕上がり 297×210mm + 塗り足し(上下左右3mm) = 原稿サイズ 303×216mm
【注意】印刷会社や商品による違い
例えば、プラスチックカードでは「2mm」、大型のタペストリーや横断幕などでは「20mm〜80mm」といった大きな塗り足しが必要になることもあります。
作成を始める前に、利用する印刷会社の仕様書を一度確認しておくと安心です。
文字を守る「セーフティーゾーン(安全領域)」
断裁のズレは、外側だけでなく「内側」にも起こります。
カット位置が数ミリ内側にズレた場合、仕上がり線のギリギリに文字を配置していると、大切な情報(電話番号やメールアドレス、ロゴなど)が一緒に切り落とされてしまう危険があります。
これを防ぐために、「切れては困る情報は、仕上がり線から2〜3mm以上内側に配置する」というルールがあります。この安全な内側の領域をセーフティーゾーンと呼びます。
文字を内側に収めることは、文字切れを防ぐだけでなく、デザイン的に「余白にゆとりがあり、すっきりと読みやすい名刺」にするためにも効果的です。
枠線や角丸にする場合の注意点
- フチどり(枠線)
名刺のフチをぐるっと囲むようなデザインは、わずかなズレでも左右非対称に見えやすくなります。もし枠線を入れる場合は、3mm以上の太めの幅にしておくのがおすすめです。 - 角丸加工
四隅を丸くするオプションを選ぶ場合でも、データ自体は角丸にせず、四角形のまま塗り足しをつけて作成します。
名刺の塗り足し Illustratorのやり方
Adobe Illustratorを使用する場合、新規作成時に「裁ち落とし」を設定することで、自動的に塗り足しのガイド線を表示させることができます。
- 新規作成画面で、アートボードのサイズに「仕上がりサイズ」を入力します(名刺なら 幅91mm × 高さ55mm)。
- その下にある「裁ち落とし」の項目で、天・地・左・右すべてに**「3mm」**と入力します。
- 作成をクリックすると、アートボード(白い枠)のさらに外側に、赤いガイド線が表示されます。この赤い線までが「原稿サイズ」になります。
- 背景や写真
アートボードのフチで止めず、外側の赤いガイド線までしっかりと伸ばして配置します。 - 文字やロゴ
アートボードのフチから、さらに内側に3mmほど離した位置(セーフティーゾーン)に収まるように配置します。
PDF形式で書き出す際は、書き出し設定のオプション画面(「トンボと裁ち落とし」項目)で、必ず「裁ち落とし設定を使用」にチェックを入れてください。
ここにチェックが入っていないと、せっかく作った塗り足し部分がカットされた状態で保存されてしまいます。
名刺の塗り足し Canvaでのやり方
ブラウザ上で手軽にデザインができるCanvaですが、印刷用データを作成する際は、自動でサイズを補正してくれる機能がないため、少し工夫が必要です。
Canvaで名刺を作成する際は、デフォルトの「名刺」テンプレートをそのまま使うのではなく、あらかじめ塗り足しを含めたサイズ(原稿サイズ)でキャンバスを作成します。
- Canvaのホーム画面右上から「デザインを作成」>「カスタムサイズ」を選択します。
- 単位を「mm」に変更し、仕上がりサイズ(91×55mm)に上下左右3mmずつを足した「幅 97mm / 高さ 61mm」を入力して作成します。
- 編集画面の左上メニューから「ファイル」>「設定」>**「塗り足し領域を表示」**にチェックを入れます。
- キャンバスの周囲に点線のガイドが表示されます。背景の色や写真は、この一番外側の点線の端まで広げて配置します。
Canvaにはセーフティーゾーンを自動で示すガイドがないため、仕上がり位置(点線より少し内側)から、さらに2〜3mm内側の位置を意識して、文字やロゴを中央寄りに配置します。
- 右上の「共有」>「ダウンロード」をクリックします。
- ファイルの種類で「PDF(印刷用)」を選択します。
- 「裁ち落としとトンボ」に必ずチェックを入れ、ダウンロードします。
名刺の塗り足しまとめ!入稿前の最終チェック
データを印刷会社に送信する前に、以下の3つのポイントをもう一度確認してみましょう。
- 背景は端まで伸びているか?
背景色や写真が、仕上がり線で止まらず、外側の塗り足しライン(原稿サイズの端)までしっかり広がっているか。 - 重要な文字は内側に収まっているか?
切れては困る文字やロゴが、仕上がり線より2〜3mm以上内側の安全なエリアに配置されているか。 - サイズは指定通りになっているか?
利用する印刷会社の指定サイズ(例:97mm×61mmなど)とデータのサイズが一致しているか。
「塗り足し」と「セーフティーゾーン」という基本ルールを意識するだけで、印刷の仕上がりはぐっとプロらしく、綺麗なものになります。
初めてデータを作る方も、ぜひこの手順に沿って丁寧に進めてみてください。

